ライバルは失速 ベテラン議員の合流で有利に見えるが、勝負は接戦。来年2月頭に予定されている総選挙に関して、12月21日にバンコクポスト紙に掲載された選挙の動向について有識者の見方を以下に紹介します。政治は今、タイ名誉党(BJT)が「勢いの中心」になりつつある。他党からBJTに加わる政治家が、次々と増えている。BJTは、下院解散に向けた重要ポストの入れ替え(人事)を経て、強い資金力と与党(現職)としての有利さを持つ党だ、と広く見られている。さらに、影響力の強い地元政治家一族(いわゆる「バーンヤイ(baan yai)」)との長年のつながりもある。こうした要素が重なり、選挙戦が始まるにあたり、BJTは有利な位置につけている。こうした強みが選挙勝利に十分なのか、また投票日までの展開で結果が変わり得るのか、有識者に聞いた。地元ネットワークがBJTのカギ世論調査機関「ニダ・ポール」センター長のスウィチャー氏は、選挙でのBJT最大のライバルは人民党(PP)だとし、BJTが最も勝ち目があるのは、比例(党名票)よりも小選挙区(選挙区制)だと語った。そのためBJTには最近、影響力のある地元の政治家一族が流れ込んでいるのだという。これまでの選挙では、地元の有力者が都市部の選挙区で負けることが多かったが、原因の一つは、同じ勢力内で候補が乱立し票が割れてしまったことだった。具体的には、以前の選挙でPPが得票率50%を超えられなかった選挙区では、BJTが、2位・3位の政治グループ(合計票がPPを上回る)に対し、争わず協力するよう働きかけるという。このやり方が比例票にもプラスになるかについて、スウィチャー氏は「候補者の選挙運動次第」だと述べた。前回はBJTの比例票は約3%にとどまった。しかし今回は、候補者が自分だけでなく党も一緒にPRすれば、比例票は12〜13%まで伸びる可能性があり、無党派層を取り込めればさらに上がるかもしれないという。この戦略でBJTが首位に立てるかについては、「可能性はあるが確実ではない」としつつ、うまくいけばBJTは下院で120〜130議席を取れる可能性があると見た。プアタイ党は100議席を下回るかもしれず、民主党は南部で健闘すれば約40議席を確保し得るという。そして勝者争いは、結局のところBJTとPPの一騎打ちになりそうだ、と述べた。またスウィチャー氏は、タイ・カンボジア国境情勢も有権者の動向に影響すると指摘した。首相でBJT党首のアヌティン氏が衝突(対立)に強硬姿勢を示していることは、「最後までやり切ってほしい」と考える層に響いている。なお、無党派層は約20%いると見られ、ここが大きな変数になる。各党はこの層を取るための明確な戦略が必要だという。BJT・クラタム党・民主党の連携の可能性チュラロンコン大学の政治学者、スティトーン氏は、BJTはベテラン政治家、ネットワーク、候補者を積み上げてきたことで、見通しが良くなったと語った。一方で、首位を狙う人民党(PP)は、候補者の入れ替えなど党内の問題を抱え、支持者の一部に疑念も残っているため、勢いを作りにくいという。BJTは東北部、特に東北下部で強い立場にあり、元プアタイ 系が鞍替えしている地域もあるという。ただし、ナショナリズム(愛国的な空気)がPPやプアタイに不利に働いても、それがそのままBJTの票増につながるとは限らず、別の党に流れる可能性もあるとした。比例票については、BJTは9〜10%程度を見込み、状況が良ければ15%まで上がり得るという。また、PPに失望した層が民主党を支持する可能性もあるとした。2023年選挙では民主党支持の一部が、現在は解党された前進党(PPの前身)に流れたが、今回はBJTには移りにくく、南部やバンコクでは民主党に戻る可能性があるという。現状の世論調査から、民主党は約30議席を取る可能性がある。その場合、BJTはクラタム党や民主党と連携し、さらに他党からも加えて連立を強化する可能性が高い、とスティトーン氏は述べた。それでも本命はプアタイ?(別の見方)元民主党下院議員のテープタイ氏は、BJTが約120議席を取る可能性はあるとしつつも、勝者として最も可能性が高いのはPPだという見方を示した。また、BJTのやり方は、かつてのチャートタイ党、新希望党、タイ愛国党などが、さまざまな勢力から政治家を吸収して急拡大したパターンに似ているという。狙いは単純で、政権を作る正当性(数)を確保することだ、という。ただし、こうした“吸収型”の拡大は、選挙後に閣僚ポスト配分などをめぐって内部対立が起こり、派閥分裂につながりがちだと警告した。候補者の一部がクラタム党のような協力政党に配置されているのも、競合を避けるためだという。比例票については、BJTは都市部や中間層、特にバンコクでの支持がまだ弱いとし、財務相エクニティ・ニティタンプラパス氏や商務相スパジー・スットゥムプン氏といった著名人を擁しても、限界があるという。BJTの政策が勢いを生むかについても、テープタイ氏は「明確な政策メッセージがまだ見えない」と述べ、BJTは地元有力者と資金力に頼っているように見えると指摘した。民主党については、元首相のアピシット氏が党を率いる形で戻れば比例票を多少回復するかもしれないが、選挙区では競争が激しく苦戦するだろうという。「党はいま立て直しの最中だ。20〜25議席取れれば、それでも十分に健闘と言える」 【ここがポイント】ペートンタン元首相失職後、人民党(PP)の協力を取りつけて、タイ名誉党党首アヌティン氏が政権を握ったが、PPとの協定上4か月後の総選挙となり、来年2月に総選挙が実施されるとしている。選挙の度にPPは第一党となるが、次回はどこまでPPが議席を維持できるか、政権党となったタイ名誉党がどこまで議席を伸ばすか、タクシンが去った後のプアタイ党が議席を挽回できるか、が焦点と思われる。首相選出のための多数派工作が今後激化していくと思われるが、少数政党、有力政治家が表裏で動くので部外者には依然として分かりにくい。また最近激化してきたカンボジアとの軍事衝突が次期選挙実施に影響を及ぼす可能性もあり、分かりにくさに拍車をかけている。