国家汚職防止委員会(NACC)は、セター元首相、複数の閣僚、そして政府高官らに対して、1人当たり1万バーツのデジタルウォレット施策に政府の予算を転用したという疑惑について、全会一致で調査を開始することに同意した。NACCのスラポン副事務総長によると、この告発はセター氏らが職務上の不正行為および財政規律法違反を犯したと非難している。疑惑は、5つの国営金融機関に充てられていた資金をデジタルウォレット計画のための中央予算に流用したという内容である。問題となっている資金は、農家の債務返済猶予制度や作物価格保証制度など、政府の施策によって発生した国営銀行の収益損失を補填するために本来割り当てられていたものである。さらに告発では、この流用が政治的な目的で行われ、タイ貢献党の人気を高めるためのものだったとされ、それが国家の財政の安定を損なった可能性があると主張している。スラポン氏によると、NACCはセター氏だけでなく、2024年8月13日の閣議でこの再配分を承認した閣僚らについても調査を行う予定だという。一方、NACCはペートンタン元首相およびその内閣に対する同様の告発を全会一致で棄却した。その理由は、彼らが疑惑の行為が行われた当時に職に就いていなかったためである。また、委員会は下院予算委員会のメンバーを調査するかどうかについて5対2で否決し、関与を示す十分な証拠がないとした。同様に、2025年度予算案の可決に賛成票を投じた国会議員および上院議員についても、関与を裏付ける証拠がないとして調査しないことを決めた。憲法第144条では、法的義務の履行を目的とした予算配分(特に銀行への返済義務など)を削減することを禁じており、これは財政・金融規律法第28条に基づく銀行への債務返済資金にも該当する。 【ここがポイント】タイ・カンボジア国境紛争後、フン・セン氏との会話録音が漏洩し、ペートンタン元首相が失職するかどうかの瀬戸際の時に、反タクシン派の元議員・元上院議員・法学者らがNACCに上記記事の告発をしました。本告発では、調査対象は元首相やその内閣だけでなく、当時の予算に賛成票を投じた309人の下院議員、175人の上院議員、72人の予算委員に及ぶ内容でした(2025年8月10日トピックス“タイ政治の大きな時限爆弾”御参照)。今回のNACCの決定では調査対象が大幅に縮小された形です。ペートンタン元首相が解職となり、タクシン元首相も収監され、政権はタイ貢献党からタイ名誉党に変わり、タクシン派の勢力が大きく後退したので、最早憲法第144条の必要性はなくなったということでしょう。今後はタイ名誉党が人民党と約束した4か月以内の下院選挙を実際に実施するかどうかが焦点です。先日シリキッド王太后が御崩御され、官公庁は1年間の喪に服することになりましたが、選挙の日程に影響があるのかどうか気になるところです。