タイのペートンタン首相(タクシン元首相の娘)が、カンボジアのフン・セン氏との電話会談問題で憲法裁判所から職務停止の命令を受けているが、今後解任された場合は、与党タイ貢献党のチャイカセム氏が後任候補になる可能性がある。しかし専門家は、より深刻な「時限爆弾」は別にあると指摘している。2017年タイ憲法144条は、議員や閣僚が国家予算を減額以外で変更することを禁止し、違反すると失職・選挙権剥奪・資金の返還義務を課す厳しい規定となっている。セター前政権が、5つの国営企業の投資予算から350億バーツを中央予算へ付け替え、ペートンタン政権が国民一人当たり10,000バーツのデジタルウォレット給付事業(現在中断)に充てた。これに対し、反タクシン派の元議員・元上院議員・法学者ら4人が国家汚職防止委員会(NACC)にこの予算付け替えの違憲調査を請求した。調査対象は内閣だけでなく、賛成票を投じた309人の下院議員、175人の上院議員、72人の予算委員に及ぶ。NACCが憲法裁判所に送致し、違憲と判断されれば、タクシン派ネットワークの多くが一掃される可能性がある。過去の判例では「公益目的」でも条文違反は違法とされる傾向が強い。もし大量失職が起きれば、内閣は職務不能となり、各省の事務次官が集まり暫定首相を選出することになる。軍部クーデターや国王指名の首相選出などがなければ、違憲判断後45〜60日以内に総選挙が行われることになる。タイ名誉党の離脱後も連立与党は辛うじて過半数を維持しており、タクシン氏はペートンタン首相(職務停止中)とタイ貢献党を守るため再び政治表舞台に登場してきた。しかし、憲法144条の判断次第では政権も議会も大規模な再編に直面する可能性が高い。 【ここがポイント】タイ政治では憲法裁判所の判断が政局に大きな影響を与えることがあります。法治国家である以上、憲法遵守は当然と言えば当然ですが、選挙を経て成立した政権そのものを変える判断まで踏み込んでくる可能性があるのは驚きます。職務停止を現職首相に命じた憲法裁判所が次にどのような判断を下すか、今後のタイ民主主義を占う上で大変大きな意味を持つと思います。